前回の記事では、四半期報告書廃止に関する概要について詳しく解説いたしました。
第1・第3四半期報告書が四半期決算短信に一本化されることにより、事務負担が軽減されるというメリットがある一方で、廃止によるデメリットも存在していると思われます。
今回の記事では、経理部に所属する私が、実際に四半期報告書が廃止されることによって生じるであろうメリット・デメリットについて考察していきたいと思います。2024年4月からの施工の前に心構えしておきましょう!
四半期報告書廃止によるメリット
まずはメリットについて考察していきましょう。
四半期報告書を作っていた時間を削減できる
経理部に所属する私にとって、やはり一番大きなメリットといえば、四半期報告書の作成にかかっていた時間を削減できることでしょう。当たり前ですが作る資料が減れば純粋にマンパワーが不要になりますからね。
また四半期決算短信と四半期報告書は、共通した内容が多く、経理・財務情報に至ってはほとんど同じといっても過言ではありません。
つまり同時期に似たような資料をだぶって作成していたわけです。四半期報告書が廃止されれば、この無駄なダブりが無くなってすっきりすると思っています。
ただ内容がかぶっているということは、コピペや流用ができるということで、実際の作成時間が驚くほど減少するかと言われると、そこまで劇的に変わることはないかなあといいう印象です。
また決算短信を作るためには、一番時間と労力がかかる連結決算集計をしなければいけないことは変わらないので、決算全体で見ても、四半期報告書の廃止によって決算業務が大幅に楽になるわけではないと考えております。
ただこれを機に無駄な業務を整理するという流れもあるかと思いますので、そうすれば決算業務の効率化が進むかもしれませんね。
四半期報告書の社内承認手続き削減できる
四半期報告書の廃止によって、当然ですが四半期報告書の社内承認手続きが無くなりますね。
多くの会社では、四半期決算短信と四半期報告書の発表は1,2週間の間が空くため、社内承認手続きは別々に走るかと思います。私の会社はそうですね。
四半期決算短信のほうが先に作成されるので、短信の承認が通った後に改めて四半期報告書の承認を回さなければいけないわけですね。
会社によって異なるとは思いますが、私の会社ではこの社内承認手続きがけっこう面倒でして、時間がかかっている工程ともいえます。
もちろん経営者層に承認をもらうわけでありますし、それなりの信頼性のある手順を踏まなければいけないわけです。経営者への内容報告、承認の捺印などの手続きを経なければいけないわけで、けっこうストレスがかかるわけです。
経営者層との日程調整や承認の付随資料の作成などに時間がかかるわけですが、四半期報告書が廃止されれば、この社内手続きがごっそりなくなるの楽になりますね。
私としてはこれがかなり大きいと感じています。開示の本質以外のところでかかる労力は減ったほうがいいですね。
監査法人のレビューが無くなってハードルが下がる
四半期報告書は監査法人のレビューが必要なのですが、一本化された後の四半期決算短信では、この監査法人のレビューが義務ではなくなります。
基本的に四半期決算はこの監査法人のレビューでお墨付きをもらわないと報告書として発表ができないので、このレビューがなくなるのはある意味大きなハードルが一つ減ることになりますね。
監査法人内において担当者がチェックしたものが、パートナーと呼ばれるお偉いさんに回って、そこで最終OKがもらうという流れになるので、このレビューも時間がかかります。
またパートナー次第では、それまで担当者とのやり取りでは何も問題がなかった項目に対して、決算発表間近になってから指摘が入ってきたりします。そこは担当者の方からOKもらっていたのに...的なことがあるわけです。
このような不確定なレビュー待ち期間が無くなるのは、作成者側にとっては嬉しいことかもしれません。
ただレビューによって正確性を担保してきてたという面もありますし、監査法人にダブルチェックをしてもらう安心感が無くなってしまうことにもなりますので、一概にメリットとは言えないところですね。
より重要な開示に時間をかけることができる
事務作業の軽減とは反するかもしれませんが、四半期報告書の作成時間を削れた分、より重要な開示内容に時間を割くことができるようになるかもしれません。
近年では、投資家がより求めている情報開示を行うという方向で、決算書の中身も拡充されてきています。
サステナビリティ、非財務情報、ESG情報の開示など、数字だけでは表すことができない企業の経営姿勢をよりオープンに示していくことが求められているのです。
先ほども述べた通り、四半期報告書と決算短信には重複する箇所も多かったため、この重複作業にかかっていた時間を、他の重要性の高い開示に振り替えることができたら、それは投資家にとってはよいことだと思われます。
ただこれだと結局作業時間は前と変わらず、事務作業の軽減という目的は達成することができないように感じてしまいますがね。
四半期報告書廃止によるデメリット
次にデメリットについて考察していきましょう。
担当部署の仕事が少なくなる、業務委託費が削減される
事務作業が軽減されるということは、当然ですが仕事が減ることになります。今まで5人必要だった部署だけど、四半期報告書廃止で4人でも回せるようになった場合、1人は人員削減されてしまうかもしれません。
もしくは決算期に残業代で稼いでいた人は給料減につながる恐れもあります。経理の仕事は季節労働のような感じなので、決算期の仕事が減ってしまうのは結構死活問題だったりします。
また経理業務を業務委託で受注しているような会社の場合は、業務委託費を削られるかもしれません。だって工数が減るわけですしね。
監査法人側では監査報酬が減らされるかもしれません。第1、第3四半期のレビューが不要となると、その分の監査報酬の減額を要求する会社も当然出てくると想定されます。
もちろん無駄な仕事が減るのは良いことだと思いますが、その分誰かの懐事情にしわ寄せがいくことは避けられないと思われますね。
短信の開示時期が変わらなければ、今より慌ただしくなる
通常、決算書の発表は四半期短信➡四半期報告書の順番で行われます。短信から報告書までの期間は会社によってまちまちかと思いますが、私の会社では1週間くらい空きます。
もし四半期決算短信に一本化されたうえで、四半期決算短信の内容を拡充して四半期報告書の内容に近づけた場合、もし四半期決算短信の発表スケジュールが例年と変わらないのであれば、今までよりもタイトなスケジュールで四半期報告書レベルの資料を作成しないといけなくなります。
四半期決算短信は速報性を重視した資料であるため比較的内容も薄めであり、詳しくは四半期報告書を読んでくださいというスタンスでしたが、四半期決算短信に一本化されてその比重が大きくなると、短信の重要性も増してきます。
ただ四半期決算短信の記載内容が増えたからといって、例年の決算発表のスケジュール感を大きく後ろ倒しにすると速報性が薄れてしまうので、私の予想では例年の決算スケジュール通りのまま、内容が濃くなった四半期決算短信を作成することになるのではないかと考えております。
四半期決算短信の拡充がどの範囲にまで及ぶかによりますが、経理部門ではより作成作業の効率化が求められることになりますね。そうしないとタイトスケジュールに押し潰されてしまうかと思われます。
決算書の作成ノウハウの継承頻度が減る
決算書を作成する頻度が減るため、ノウハウ・知識の継承が難しくなることも考えられます。半年に1回しか作らない資料って、まずはどんなものだったか思い出すところから始めますよね。四半期の3か月前ならまだけっこう覚えていますが。
そんな状況で人員が流動的に入れ替わると、前回の報告書を作成していた人が異動していて、重要なポイントの継承が失われてしまう恐れがあるかと思います。
決算書は毎期なんかしらの特殊事象を勘案してケースバイケースで記載内容を検討しなければいけない場面があるので、完全にマニュアル化するのが難しい面があります。インテンドや行間の体裁を整えるのもちょっと職人芸みたいなところもありますしね。
また若手には四半期報告書で練習させてから有価証券報告書にあたらせるといったプロセスを踏むことができなくなると考えると、決算書の知識継承という面では四半期報告書は残っていたほうがいいと感じてしまいますね。
短信の様式変更に対応する必要がある
短信の内容が拡充されるとなると、今まで作成していた短信の様式から変更が加えられることになりますね。
短信はそこまで期によって内容が大きく変わるものでもなかったため、前期のものをコピーして作成してきていましたが、一本化への移行時はいろいろと様式変更の手間が増えるかもしれません。
注記の追加やページ割の調整など、細かい変更に手間取るかもしれませんね。でもまあ一度変更すれば次以降はコピーすればいいので、そこまで大きなデメリットではないかと思われます。
監査法人のレビューが減り正確性の担保に不安が生じる
メリットのところでも触れたように、第1、第3四半期で監査法人のレビューが義務でなくなることは、レビューという障壁が減って楽になるという面がある一方で、レビューによって担保されていた正確性が薄れるという恐れがあります。
私が決算書を作成するときによくあるのが、「ここの注記がこの書き方でいいか若干不安だけど、とりあえずこの文案で監査法人に投げてみて様子を見てみよう」という流れですね。
四半期報告書の注記は監査法人のレビュー対象であるため、ちゃんと見てくれるわけです。このように監査法人に期待していた校閲・ダブルチェックのプロセスがごっそり失われてしまうとしたら、経理側としてもかなり不安なことだと思います。
レビューが義務ではなくなった後も、各企業が任意で監査法人にレビューを依頼することはできますので、多くの企業が第1、第3四半期にどうするのかは傾向を注視したいと思います。
投資家へ開示される情報が少なくなる
一本化後の四半期決算短信の内容が拡充されるといっても、さすがに四半期報告書と全く同じ内容まで拡充されることはないと考えられます。
そうなると必然的に第1,第3四半期では投資家が決算書から得られる情報が減ってしまうことが考えられます。
世界的にも投資家への情報開示の重要性が増してきている中で、ある意味開示の後退ともとれるような動きになることは、投資家にとって良いことだと言えませんね。
また監査法人のレビューを通っていない決算書しかないというのも投資家としては不安かもしれません。この決算書は信頼に足るべきものなのかという信頼性の揺らぎにも直結してきますからね。
一本化後にどこまで投資家が信頼できる四半期決算短信を開示できるかは、証券取引所の方針と各企業の情報開示の姿勢にかかってきますね。
おわりに
四半期報告書の廃止について、そのメリット・デメリットについて経理部主観で考察してきましたがいかがでしたでしょうか。
四半期報告書の廃止によって生まれた時間を有効活用できる一方で、作成頻度が減ったことにより、企業の情報開示が減少したり、作成部門での知識やノウハウの継承ができなくなるというデメリットも存在していると感じます。
このように、四半期報告書廃止には賛否両論がありますが、もう施工されることはほぼ確定しております。
経理部としてはこの変更きちんと受けとめて、粛々と対応していくなかでメリットを大きく、デメリットを小さくする努力をしていくことが大事だと考えております。
この記事が四半期報告書廃止に関する理解を深める一助となりましたら幸いです。
本日も拙いブログを読んで頂きありがとうございました!!!Have a nice run!