日本列島そして世界を駆け抜けているカルロス・ゴーン氏逮捕のニュースについて、昨日は『金融商品取引法 有価証券報告書虚偽記載』に焦点を当てて紹介させて頂きました。
ゴーン氏の虚偽記載は、『4.提出会社の状況のコーポレートガバナンスの状況』の部分と述べましたが、厳密にはその他部分にも多くの間違いがあると思われます。特に、これは現金支出の過少申告なので、『計算書類』と呼ばれる部分のほとんどに影響があります。
・貸借対照表(BS)
・損益計算書(PL)
・包括利益計算書
・株主資本等変動計算書
・キャッシュフロー計算書
今回は役員報酬とは何かと紹介しつつ、有価証券報告書の計算書類のどこに虚偽記載の影響が出ているか見ていきましょう!
役員報酬とは?
まずはカルロス・ゴーン氏が受け取っていた『役員報酬』とはいったい何なのか説明します。
役員報酬は給与とは違う
『役員報酬』とは法人の取締役や監査役といった役員、経営者に対して支払われる報酬のことです。雇用されている従業員がもらう『給与』とは区別されています。
役員報酬
・法人の取締役や監査役といった役員、経営者に対して支払われる
・報酬額は定款または株主総会の決議によって決定される
・損金参入できない(すごくざっくりいうと法人税が減らない)
・雇用保険料を徴収しない(雇用されてないので)
給与
・雇用されている従業員に対して支払われる
・金額は契約内容や、会社の給与規定に基づいてけったいされる
・全額損金算入できる
・雇用保険料を徴収する
役員報酬は損益計算書のどこに集計される?
役員報酬は「人件費」の分類になり、損益計算書上でいう『販売費および一般管理費』に集計されます。略して『販管費(はんかんひ)』って言うことが多いです。
※役員が製造部門に携わるような仕事をしていた場合は、その部分については製造原価に集計されます。
金融庁総務企画局 『「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(財務諸表等規則ガイドライン)』
『販売費及び一般管理費に属する費用とは、会社の販売及び一般管理業務に関して発生した費用例えば販売手数料、荷造費、運搬費、広告宣伝費、見本費、 保管費、納入試験費、販売及び一般管理業務に従事する役員、従業員の給料、賃金、手当、 賞与、福利厚生費並びに販売及び一般管理部門関係の交際費、旅費、交通費、通信費、光熱費及び消耗品費、租税公課、減価償却費、修繕費、保険料、不動産賃借料及びのれんの償却額をいう。』
つまり役員報酬を過少計上していたということは、損益計算書の販管費が少なく計上されていたことになり、そうなると最終的な利益も実情より多く計上されていたことになります。
もしかしたら、虚偽記載は『4.提出会社の状況のコーポレートガバナンスの状況』の部分のみであり、計算書類は正しい金額を計上していたという可能性はあります。
しかし、それは我々では分からないので、今回は計算書類も虚偽だった前提で、役員報酬の過少計上によって計算書類に影響が出る部分を見ていきます。
計算書類への影響
今回も日産自動車の『平成27年3月期の有価証券報告書』を見ていきます。
日産 | 投資家の皆さまへ | IRライブラリー | 有価証券報告 | 2014年度
損益計算書への影響
まずは『販管費及び一般管理費』の部分が変わります。そしてここが変わると、これより下の利益項目はすべて変わることとなります。
なぜなら損益計算書は一番上の売上高に対して損益項目を足し引きしていく形式だからです。最終的に法人税を計算後の『当期純利益』の金額まで変わります。
営業利益 ⇒ 経常利益 ⇒ 特別利益 ⇒ 当期純利益の全てが変わります。
貸借対照表への影響
貸借対照表(BS)には役員報酬についての項目はありませんが、結果として利益の金額に変動があるため、純資産の部の『利益剰余金』の金額が変わります。
また報酬として現金支出が関わるはずなので、資産の部の『現金』なども合わせて変わってくるでしょう。
包括利益計算書への影響
包括利益計算書の説明は省略しますが、この計算書は損益計算書の『当期純利益』をスタートにして作成されているのでこの数値も全体的に変わります。
株主資本等変動計算書への影響
これは株主資本が当期中にどのような変動をしたかを示す計算書です。詳細は省略しますが、この計算書も『当期純利益』の項目があるのでここが変わります。
それに伴い、『当期変動額合』と『当期末残高』にも影響が出てきます。
キャッシュフロー計算書への影響
キャッシュフロー計算書は、企業のキャッシュ(現金)の増減を見る計算書です。役員報酬は現金という形で支払われるはずなので影響がでます。
まずキャッシュフロー計算書は、損益計算書の『税引前当期純利益』の数値をもとに計算をスタートするので、まずここから変わります。
また役員報酬はによる現金支出は『営業キャッシュフロー』による増減に、分類されるので、その部分が変わります(役員報酬の支払いは現金支出項目なので、「その他」に集計されます。)
それに伴い、最終的な1年間の『増減額』の合計と、『現金及び現金同等物の期末残高』の数値も変わってきます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。役員報酬と一言でいっても、決算書上では利益に影響が出てくる科目であり、ほぼ全ての計算書類の数値に修正が必要となってくる事態であると思われます。
このゴーン・ショックの影響が日産自動車の、上場企業としての立場にどれほどの影響を与えるかは図りしれません。。もちろんゴーン氏1人でこれらすべての虚偽をできるわけがありませんので、上層部が一体となって隠蔽していた疑いもあります。司法取引をして、日産から悪を排除したという論調にTVはしたいような感じでしたが、残っている経営陣の責任追及もしっかりやってほしいですね。
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