日産自動車のカルロス・ゴーン氏の逮捕というビッグニュースがお茶の間を駆け抜けましたね。
東京地検特捜部はすでにゴーン氏の逮捕状をとっていて容疑が固まり次第逮捕する方針であるとのことです。
さて今回のゴーン氏の罪状は
『金融商品取引法違反 有価証券報告書虚偽記載』
とのことでした。
あれ?脱税とかじゃないの?と思った人もいるかと思います。
株式投資をしてなかったり会計系の仕事をしてないとあまり馴染みのない用語かもしれませんね。
一応私は経理マンの端くれであります。
ということで今回は、ゴーン氏の犯した罪の内容はそこそこにしておいて『金融商品取引法違反 有価証券報告書虚偽記載』とはなんなのかという点に焦点を当てて説明してみたいと思います。
金融商品取引法とは
まず金融商品取引法とは、株式の発行や売買などの金融取引を公正なものとし、投資家の保護や経済の円滑化を図るために定められた日本の法律です。
この法律により、粉飾決算やインサイダー取引などの不公正な取引を禁止しています。
2006年に従来の証券取引法が一部改正され、現在の金融商品取引法が成立しました。略称として『金商法(きんしょうほう)』と呼ぶ人も多いかもしれません。
ゴーン氏の犯した違反とは?
今回のゴーン氏の容疑は、東京地検特捜部によると以下の通りです。
『ゴーン会長らは、平成23年3月期から平成27年3月期までの5年間のゴーン会長の報酬が実際には合わせて99億9800万円だったのに、有価証券報告書には49億8700万円と50億円余り少なく記載していたとして金融商品取引法違反の疑いがある』
つまりたくさん報酬をもらっていたのに、それを正しく報告していなかったとのことです。
ここで大切なのは今回の件で問われているのは「有価証券報告書に記載した金額が少なかった」ということです。
まあ実際には税務署への申告も虚偽の可能性が高いので最終的には脱税にも問われることになると思いますが。
有価証券報告書とは?
ざっくりと言いますが、上場企業は『金融商品取引法』に基づいて、事業年度ごとに『有価証券報告書』を作成することが義務付けられています。
略して『有報(ゆうほう)』という人も多いです。また年度末以外の4半期末には『四半期報告書』を作成します。
例えば3月決算の会社なら、以下のように報告書を作成します。
6月末:第一四半期報告書
9月末:第二四半期報告書
12月末:第三四半期報告書
3月末:有価証券報告書
四半期報告書に比べて、事業年度末に作成する有価証券報告書はかなり細かい会社の状況を記載します。
だいたいの会社が以下のフォーマットに沿って有価証券報告書を作成しております。
1.企業の概況…沿革や事業内容、関係会社の状況、従業員の状況 など
2.事業の状況…1年間の売上について。キャッシュフローの状況や、事業分野の情報、やるべき課題、研究開発の状況、抱えているリスク、重要な契約 など
3.設備の状況:どのような設備投資をしたか
4.提出会社の状況:株式についての記載。株式の総数や資本金の推移、大株主の状況、ストックオプションの内容、配当、株価、役員の状況、コーポレートガバナンスの状況
5.経理の状況:連結財務諸表(連結貸借対照表・連結損益計算書・連結剰余金計算書・連結キャッシュフロー計算書)、財務諸表など。
6.提出会社の株式事務の概要:決算期や株主総会など、事務的な内容
7.提出会社の参考情報:親会社の情報など
さて今回、有価証券報告書のどこに虚偽があったかというと
『4.提出会社の状況のコーポレートガバナンスの状況』
の部分です。
では実際に日産自動車の有価証券報告書を見てみましょう。
日産自動車の有価証券報告書を見てみよう
上場企業の有価証券報告書を見るには以下の2つの方法があります。
①企業のホームページのIR情報にアップされているものを見る。
②『EDNIET』から見る。
①の企業のホームページに行ってみれば見つかると思います。
B to C企業の場合は、お客様向けの宣伝ページが多いので、ストレートに行きたいのなら『日産自動車 IR』で検索するのが早いです。
以下のサイトの左側のバーから有価証券報告書を選択してください。
②の『EDINET』とは《Electronic Disclosure for Investors' Network》「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」の略称です。
有価証券報告書・四半期報告書などの決算書を無料で閲覧できる金融庁の情報公開システムです。↓以下リンク
ということで今回の該当部分についてみていきましょう。
『平成23年3月期から平成27年3月期』の報酬ということなので、とりあえず平成27年3月期(2014年4月1日~2015年3月31日)有価証券報告書を開いてみます。
該当ページを開いてみましょう。
この部分について実際の金額よりも少なく記載をしていたということになりますね。ちなみにこの年の報酬額は10億3,500万円です。虚偽記載する必要なんてないでしょ....
役員報酬の報告義務
そもそも役員の報酬を報告する必要があるのかというと、有価証券報告書提出企業は開示が義務化されております。
『年間1億円以上の報酬を得た役員(取締役、監査役、執行役、社外役員)の氏名と金額を個別に開示すること』
これは経営陣が業績を度外視した高額報酬を受け取らないように牽制する目的もあります。
そうした側面から企業の経営を監視し規律を正すということで『コーポレートガバナンス』の項目に記載されています。
有価証券報告書虚偽記載の罰則
有価証券報告書について、「重要な事項につき虚偽の記載のあるもの」を提出した者(個人)に対しては、次のような金融商品取引法の中でも特に重たい刑事罰が科されています。
(有価証券報告書の虚偽記載)
『10 年以下の懲役若しくは 1,000 万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。』(金融商品取引法 197 条1項1号、197 条の2第6号)
また、法人等の代表者・代理人・使用人などが、その法人等の業務・財産に関し、違反行為を行った場合、その違反者(個人)だけではなく、法人等に対しても次のような罰則が科されることになっております。
(有価証券報告書の虚偽記載)
『7億円以下の罰金』(金融商品取引法 207 条、両罰規定)
もちろんこれらの罪は重たいですが、それ以上に『企業の信用』を失うというのが一番大きいですね。間違いなく株価も落ちることでしょう。
おわりに
有価証券報告書は企業の成績発表であり、それが真実だと信じて投資家は投資活動を行います。
これに虚偽があるということは市場を裏切る許しがたい行為であると言わざるを得ません。
有価証券報告書を発表するには「監査法人」による承認も必要なので、今後は監査法人の責任も問われてことになるでしょうね。
日産自動車は不正検査の問題起きたばかりであり、重ねて起きた今回の件で世間からはより一層厳しい目で見られることでしょう。
日産自動車の今後、誠実な行動をとることができるかに注目が集まります。
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